一番好きな俳優(わざおぎ)を尋ねられたら
迷うことなく
中村吉右衛門!…と答えていた時期がありました。
(余談ですが 二番目は坂東吉弥。)
平成の初め頃
京都勤務だったこともあり、
昼夜通しで南座に陣取ることもしばしばで
(そんな酔狂に付き合ってくれる人を探すのも面倒で
大抵は一人で行っていた)
何とか目に焼き付けることができたのでした。
そんな中 吉右衛門さんは
まさに脂の乗りきった円熟期を迎えていて
ニンにはまった役柄を
なんとキラキラ☆かつ重厚に演じておられたことか!
上の写真は
「引窓」の濡髪長五郎。
下は
「籠釣瓶花街酔醒」の佐野次郎左衛門。
(「演劇界」と歌舞伎座公演パンフレットの表紙より)
どちらもその頃上演された折に見て
濡髪(お相撲さんです)の大きさと切なさ、
田舎者・次郎左衛門の高揚感からの絶望感…が
せつせつと胸に迫ったのが
強く印象に残っています。
「籠釣瓶」では
大夫・八ツ橋役が歌右衛門先生でしたが
若い頃からの当たり役としての艶然たる様子はもちろんのこと、
“まことの花”の凄みに圧倒されたっけ。
いくら記録映像が鮮明に残せる時代だとて
同じ空気の中で演じられた一期一会の舞台には
やはりその場で体感した観客にしか伝わらない何かがあるのでした。
吉右衛門さんの放つオーラや
声音の振動に触れられて
幸せな時間だったなぁ…
初版で入手して読んだ
吉右衛門さんの自叙伝的エッセイ集。
(ちなみに カバーの絵も吉右衛門さんの手になるもの)
ばあやさんとの心温まるお話がたっぷり詰まっています。
今また パラパラめくってみても 涙が出そうに….
きっと今頃 ばあやさんと再会されていることでしょうね。
病から解放されて
どうぞしばし安らかにお眠りください。
いくらか同じ時代を生きることができ
お人柄に触れさせていただき、
どうもありがとうございました!